前回行かなかったシアヌークビルにやって来た。 カンボジアに入国して以来ずっとトラックの荷台で移動してきた。想像を絶する悪路を黄砂にまみれながらの移動だ。シェムリアプ〜プノンペン間は特にひどく、服の色が変わるほどの道を11時間かけて移動した。 しかし、プノンペン〜シアヌークビル間は完全に舗装され、バスも走っている。やっと快適な移動が出来た。 シアヌークビルではソカ・ビーチとポート・ビーチがメインのビーチだ。私は宿の安いポート・ビーチ側で宿を探した。 宿はふたつに絞られた。3US$のドミを持つ宿と、2US$のシングルを持つ宿だ。シングルはやはり寂しいので私はドミを選んだ。シングルより高いドミに泊まるのは初めてだ。しかし、この宿が今ひとつしっくりいかず、翌日2US$のシングルを持つ宿に移った。旅人とは我侭なものだ。
宿の近くのレストランでは日本語を話す子供が店の手伝いをしていた。注文を受けると「ダイジョウブ。ゴメン、チョットマッテ」と言い、帰るときは「アリガトウ。マタネ、マタキテネ」と言う。楽しいので毎日通った。 ある日この店でふと柱を見ると、青白いボディにピンクの斑点という巨大なヤモリがいた。店の娘が「トッケイ」と教えてくれた。いつも「タタタタタタタタ…。ケッコー、ケッコー…」と鳴くやつだ。姿を見たのは初めてだった。しばらくすると鳴いてくれた。それからトッケイは常連の如くそのレストランにいた。 ポート・ビーチでは9年振りに海に浸かった。水温は飛び込めるくらい暖かかった。私は泳げないので温泉にでも入っているような気分だった。
ソカ・ビーチ周辺はとても狭く、海以外は何もないようなところだ。思ったより退屈である。ビーチも日陰になるようなところが少なく、長くはいられない。そこで、部屋に戻り本を読むことにした。 カシュガルでもらった『雪蛍』は昆明で交換、そしてそれをシェムリアプのタケオ・ゲストハウスで一緒だったタケシ君と交換してもらったのが京極夏彦の『姑獲鳥(うぶめ)の夏』だ。これは最高に面白かった。妊娠20ヵ月の娘と突然失踪した夫の謎を解くというミステリー物だが、どんどん引き込まれていった。シアヌークビルの印象そのものさえこの小説の舞台として彩られていくようだった。 姑獲鳥は子供を奪う妖怪、うぶめ(産女)は子供を託す妖怪だ。 読み終えて明かりを消すと、妖怪に見られているような気分になった…。 |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |